歯科用金属をめぐる不都合な真実 3 ~水銀に関する水俣条約Minamata Convention~

前述したように、水銀が人体に極めて深刻な健康被害を起こすことは、政府公式見解として認められています。そして、水銀の使用を全世界的に制限する方針は、水俣病を経験したわが国において2013年に開催された世界会議(地球規模の水銀汚染の段階的防止を目指して2013年10月7日から11日まで、熊本市及び水俣市で水銀に関する水俣条約の外交会議及びその準備会合が開催)において確認されました。そして同会議は60か国以上の閣僚級を含む約140か国・地域の政府関係者の他、国際機関、NGO等、1,000人以上が出席し、「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention)」が全会一致で採択され、92か国(含むEU)が条約への署名を行いました。そして、本条約は法的拘束力のある条約として、平成29(2017)年8月16日に発効しました。

水俣条約(Minamata Convention)」においては、歯科用アマルガムを含み、水銀の使用を必要とする全産業における水銀製品の使用を段階的に制限していく具体的方策が提示されています。こういった世界的トレンドを背景として、わが国では2016年4月の歯科診療報酬改定(厚生労働省)以降、アマルガム合金の使用は健康保険から姿を消しました。
 しかし、世界規模でみると、水俣条約以降、直ちに地上からアマルガムが消えてしまったわけではありません。現在でも一部の臨床家は材料学的な過去の実績を評価し、その使用を続けています。例えば先進国アメリカにおいても、アマルガムは臨床の現場から消えてはいませんが、常にアマルガムが非水銀性充填材料であるコンポジットレジンと比較して機械的強度は大丈夫か、長期予後はどうなのか、という臨床成績に関するメタアナリシスやシステマティックレビューが繰り返し試みられています。そして、近い将来、アマルガムの代替材料がアマルガムと遜色ないという結論が科学的根拠と共に示される日が来れば、その時点でアマルガムは歯科材料としての使命を終えるでしょう。
(次回へ続く)